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LOVE47(16)

2015 11 19
「1杯、いかがですか」

狭い部屋には何年使い古したかわからないようなスチール机、そして、黒皮が破れかけている長椅子が置いてあった。コートを脱ぎ、ソファに座った葉子に、男は当然のようにビールを進めてきた。

「結構です。いくら請求されるかわからないし」
「これはサービスですよ」

「ただほど高いものはないですから」
「上司だけあって、かなり強気なんですねえ」

「ねえ、早く交渉を済ませましょう。いったいいくらに下げてもらえるのかしら」
「焦らないでください」

机に座った男は、一人で缶ビールを開け、うまそうにのどに流し込んだ。

既に深夜に近いはずだ。

だが、葉子は自宅に帰るのが遅くなることを心配していなかった。娘はともかく、夫は妻の不在になど何の関心も抱かない。

それに、佐伯がまだ自宅にいるかもしれない。葉子は今夜、彼との再会は避けたかった。

薄手のセーターに、膝丈のスカート、そして黒色のストッキングで美脚を包んでいる人妻。

机の向こう側から、男が改めてその肉体を観察するように葉子を見つめた。

「さっき人妻だって言ってましたが、奥さんなんですか」
「それが何か?」

葉子の言葉に、男は僅かに目を光らせ、ビールを喉奥に流し込んだ。

「年増の人妻が私のタイプでしてね」
「ねえ、早くしてもらえるかしら。値下げするって、あなた、言いましたよね」
「ここで働きませんか、奥さん?」

葉子の言葉を無視し、男が笑みを浮かべて言った。

「馬鹿な事いわないで」
「それなら今夜の請求はちゃらにします。奥さんが体で払ってくれるっていうのなら」
「あいにく、こんなぼったくり居酒屋で働くつもりなんてないから」

男が少し顔をこわばらせ、ゆっくりと立ち上がった。

「だったら請求させてもらいますよ。5万円ちょうど」
「ふざけないで。ほとんど同じじゃないの」

至近距離にまで来た男を、葉子は座ったままで見上げるようにして言った。

「奥さんのサービス次第で1万円にしてあげますよ」
「サービス?」
「私への個人的なサービス。人妻には目がなくてね。特に奥さんみたいに色っぽい女はたまらない」

男の言葉に、葉子はいやな気配を感じた。

「キスしてくださいよ、奥さん」

室内の空気が固まったような気がした。

鋭い視線で男を見つめたまま、葉子はしばらく沈黙した。

「別に抱かせろとは言いません。キスだけで大幅値下げだ」

男の要求に、黙っていた葉子はふっと笑みを浮かべた。

「情けない人・・・・・・」
本音だった。葉子は、怒りを超越して、目の前にいる男に対する憐れみにも似た感情を抱いた。

こんな要求に従う必要など、まるでない。このまま支払うことなく店を飛び出し、派出所に駆け込めばすぐに解決するだろう。

だが、葉子はこれ以上、「彼」をこの件に巻き込みたくはなかった。

自分が引き受けるといった以上、ここは自分自身で解決すべきなのだ、と思った。

それも、きわめて速やかに。

これ以上、この汚れた場所に留まることが、葉子には許せなかった。

「私のキスは高いわ。ただにしなさいよ」
その人妻の言葉を想像していなかった風に、男は顔をゆがませた。

「本気かよ、奥さん」
「ええ」
「面白い。いいぜ、ただにしてやろうじゃないか」

葉子の隣に座った男は、案外と素直にそう答えた。その表情にはまぎれもない興奮の色があった。

葉子は、ここを立ち去った彼の後姿を思い出した。店の外に出た彼はもう、家路についたのだろうか。

彼を救うことだけを考えて妙に熱くなり、この店長の酔狂な要請にこたえようとしている。

男から逃げるように立ち上がると、葉子は自分自身をからかうように心の奥でささやいた。

あなた、いったい何してるの・・・・・

今夜、若い看護師たちと淫らな行為に耽っている夫に対する、屈折した抵抗なのかもしれない。そんな思いが葉子の心をよぎる。

立ち上がった葉子は、ソファに座る男を今度は見下ろし、クールに言った。

「早く済ませて」
あの男、佐伯にも、まだ口づけは許したことがない。だが、葉子はもう迷う気分ではなかった。

黙ったまま、男が再び立ち上がった。

そして、葉子と正対するように、その体を接近させてきた。

長身の人妻と同じような身長の男が、その両手を葉子の腰に伸ばす。

「くびれてますねえ、奥さん」

強く引き付けられ、葉子は思わず男の胸に飛び込むように肢体を揺らす。

初めて、葉子は不安を感じた。

男の手が、人妻のふくらんだヒップをスカートの上からそっと撫でるように動き始めた。

葉子は瞳を閉じ、男の好きなようにさせた。

下半身を密着させながら、男は次第に指先に力をこめていく。

人妻の美尻を揉みしだき、脇腹を撫でる。

葉子の表情に変化が生じることを期待するように、男はいやらしい視線を注ぎ続ける。

「早く済ませなさいよ」
人妻が瞳を開き、懇願するようにささやく。

男は答えない。

その代わり、右手を人妻の肉体の前に移動させていく。

薄手のセーターが、男を挑発するように丸く、たわわに盛り上がっている。

男の手が、その盛り上がった胸の辺りを、ゆっくりと責め始める。

両手で葉子の乳房をいじめながら、男はなおも人妻の表情を見つめ続ける。

「何も感じないわよ」
男の視線から逃げることなく、葉子はクールにささやく。

そして、男の口が近づいてきた。

葉子は思わず顔を逸らし、彼から逃げた。

「約束が違うな、奥さん」
「わかったわ」

覚悟を決めた葉子が、男をきつくにらみつける。

もう逃げようとはしない人妻の唇に、男のそれがそっと重ねられた。

「唇を開くんだ、奥さん」
キスをしながら、男がねっとりとした声でささやいてくる。同時に、彼の手は、乳房の先端付近を撫でるようにくすぐってくる。

瞳を閉じ、葉子は男に挑戦するように、唇をそっと開いた。

ただ「彼」のことだけを考え、葉子は男に唇を吸うことを許した。

男の舌先が、葉子のそれをとらえた。

葉子の右手が男の胸板を押し返すように動く。

だが、男はさらにきつく抱擁し、離れることを許さない。男は息を荒げ、情熱的に口づけを開始した。

「もういいでしょう・・・・」
葉子の言葉に、男は答えようとしない。

男の右足が、人妻の美脚を割るように食い込んでくる。

「待ちなさい・・・・」
唇を吸われた人妻の表情が、初めて歪む。

ふらついた葉子を見逃さないように、男が背後のソファに座り込む。

そして、人妻の脚を大胆に広げ、向かい合った格好で自分の上に座らせた。


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Comment
いい展開です。必ず嫌々ながら抱かれてほしい

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