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LOVE47(完)
2016 05 11
窓の外に広がる風景は、3年前と同じだった。
穏やかな秋の日差しを受けて、清らかに輝く湖。
取り囲む草原、そして花畑。
彼はあの日のことを想起した。
あの午後、草原で横たわり、まっすぐに見つめた青空のこと。
遠くから聞こえた彼女の声。
そして、隣にいた女性の首を飾っていた花のネックレスのことを。
「皆様・・・・・・・」
たどたどしい日本語が、彼を現実に引き戻した。
彼の隣には、一人の女性がいる。
そして目の前に立つ外国人。
それ以外にこの狭い空間にいる人間は少ない。
勤務先の人間には、今日のこのイベントのことを、彼は告げていなかった。
彼の、そして、彼女の親族だけが、二人を見つめている。
「・・・・・・愛することを誓いますか」
彼は、白の服装に身を包み、口ひげをたくわえた老いた外国人が口にした長い文章の最後の部分を、脳裏で繰り返した。
答えは決まっている。
3年前、ここに来たとき、それは既に決めていた。
「誓います」
よどみのない口調でそう言ったとき、彼はそれを感じたような気がした。
背後の席のどこかで、かすかなさざ波が立ったことを。
隣に立つ彼女の表情をうかがうことはできない。
だが、泣いていないことは確かだった。
迷いなど微塵もない様子で、彼が受けたのと同じ質問に対し、彼女ははっきり言い切った。
「誓います」
最後方の列に並んで座る男女が、儀式を硬い表情で見つめている。
男の手が、隣に座る女の手の上に重ねられている。
女の瞳は、涙で潤んでいるように見える。
前を向いたまま、男がささやいた。
「何年になるだろうな」
「ちょうど3年前よ」
「あの事件のことじゃない」
「・・・・・・」
「俺たちがあの場所に立っていた日のことだ」
しばらくの沈黙の後、女もまた、視線を前方に注いだまま、小さく言った。
「27年かしら」
「27年」
「ええ」
「24年で終わっていたのかもしれない」
「・・・・・・・」
「俺のせいでな」
女はもう片手を、重ね合わされた二人の手の上に置いた。
そして、男の手に指を絡め、強く握った。
前方の二人が、儀式を終えようとしている。
最後に二人が口づけをした瞬間、空間に拍手が響いた。
そして、彼は彼女を抱きしめた。
皆が立ち上がり、二人を祝福する。
振り返った二人は、最高の笑みを浮かべていた。
中央に敷かれたカーペットの上をゆっくり歩き始める二人。
何人かの親族が、二人に声をかける。
中央を進む二人は、笑顔でそれに応えた。
そして、二人は教会の出口付近に座る男女のそばにまで歩みを進めた。
立ち止まった二人を、座席の前で立つ二人の男女が、熱く見つめる。
「おめでとう」
小さな声で、座席にいた男性が声をかけた。
純白のドレスに身を包んだ若い女性が、涙を落した。
傍らに立つ若い男性が彼女を抱き寄せ、そして、座席にいる女性を見つめる。
二人は何かをわかりあうかのように、しばらく見つめ合った。
そして、座席の前に立った女性がささやいた。
「おめでとう、理穂」
「ママ・・・・・」
「剛さん、理穂のこと・・・・・・・」
「ええ」
女性スタッフが、閉ざされていた教会のドアを開く。
眩しいほどの光が室内に注ぎ込む。
外には、未来があった。
新郎新婦にだけではない。
新婦の両親にも用意された未来が。
「俺たちも行こう」
「はい」
波多野葉子は、夫の腕にそっとすがった。
完
穏やかな秋の日差しを受けて、清らかに輝く湖。
取り囲む草原、そして花畑。
彼はあの日のことを想起した。
あの午後、草原で横たわり、まっすぐに見つめた青空のこと。
遠くから聞こえた彼女の声。
そして、隣にいた女性の首を飾っていた花のネックレスのことを。
「皆様・・・・・・・」
たどたどしい日本語が、彼を現実に引き戻した。
彼の隣には、一人の女性がいる。
そして目の前に立つ外国人。
それ以外にこの狭い空間にいる人間は少ない。
勤務先の人間には、今日のこのイベントのことを、彼は告げていなかった。
彼の、そして、彼女の親族だけが、二人を見つめている。
「・・・・・・愛することを誓いますか」
彼は、白の服装に身を包み、口ひげをたくわえた老いた外国人が口にした長い文章の最後の部分を、脳裏で繰り返した。
答えは決まっている。
3年前、ここに来たとき、それは既に決めていた。
「誓います」
よどみのない口調でそう言ったとき、彼はそれを感じたような気がした。
背後の席のどこかで、かすかなさざ波が立ったことを。
隣に立つ彼女の表情をうかがうことはできない。
だが、泣いていないことは確かだった。
迷いなど微塵もない様子で、彼が受けたのと同じ質問に対し、彼女ははっきり言い切った。
「誓います」
最後方の列に並んで座る男女が、儀式を硬い表情で見つめている。
男の手が、隣に座る女の手の上に重ねられている。
女の瞳は、涙で潤んでいるように見える。
前を向いたまま、男がささやいた。
「何年になるだろうな」
「ちょうど3年前よ」
「あの事件のことじゃない」
「・・・・・・」
「俺たちがあの場所に立っていた日のことだ」
しばらくの沈黙の後、女もまた、視線を前方に注いだまま、小さく言った。
「27年かしら」
「27年」
「ええ」
「24年で終わっていたのかもしれない」
「・・・・・・・」
「俺のせいでな」
女はもう片手を、重ね合わされた二人の手の上に置いた。
そして、男の手に指を絡め、強く握った。
前方の二人が、儀式を終えようとしている。
最後に二人が口づけをした瞬間、空間に拍手が響いた。
そして、彼は彼女を抱きしめた。
皆が立ち上がり、二人を祝福する。
振り返った二人は、最高の笑みを浮かべていた。
中央に敷かれたカーペットの上をゆっくり歩き始める二人。
何人かの親族が、二人に声をかける。
中央を進む二人は、笑顔でそれに応えた。
そして、二人は教会の出口付近に座る男女のそばにまで歩みを進めた。
立ち止まった二人を、座席の前で立つ二人の男女が、熱く見つめる。
「おめでとう」
小さな声で、座席にいた男性が声をかけた。
純白のドレスに身を包んだ若い女性が、涙を落した。
傍らに立つ若い男性が彼女を抱き寄せ、そして、座席にいる女性を見つめる。
二人は何かをわかりあうかのように、しばらく見つめ合った。
そして、座席の前に立った女性がささやいた。
「おめでとう、理穂」
「ママ・・・・・」
「剛さん、理穂のこと・・・・・・・」
「ええ」
女性スタッフが、閉ざされていた教会のドアを開く。
眩しいほどの光が室内に注ぎ込む。
外には、未来があった。
新郎新婦にだけではない。
新婦の両親にも用意された未来が。
「俺たちも行こう」
「はい」
波多野葉子は、夫の腕にそっとすがった。
完
新作早くお願いします
困難な状況でも逃げずに立ち向かい、気持ちを奮い立たせて、書き切る姿勢に拍手を送ります。素晴らしいです。作品に厚みが増しましたね。
プロローグからの始まり。とても興味深く読み進めることができましたよ。
これから暑くなる季節ですね。お身体ご自愛ください。本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。
回数が多いから閉めたのか?
佐伯の活躍は良かったですよかなり抜けましたもん。
佐伯の第2ラウンド行くんだとばかり思ってただけに。
次回作に期待したい。ありがとう