FC2ブログ

甘い蜜(22)

2016 10 07
夫を勤務先に送り出した妻は、ダイニングテーブルに座り続けていた。

熱を伴った昨夜の記憶が、ついさっき起きたことのようによみがえってくる。

そのはずだ。正代は朝までろくに眠ることさえできなかった。

「全部脱ぎましたか、奥さん」

内藤のメッセージは執拗だった。

だが、正代はそれを見ようとはしなかった。

脱ぎ去った服の下にスマホを押し込む。

鏡に映し出された裸体を見つめながら、人妻は自らの意志で、その下着を手にした。

過去に選んだことのない、きわどいデザインのブラとショーツ。

正代は羞恥を感じながら、黒色のランジェリーで熟れた裸を隠した。

何度か、内藤のメッセージが届いた気配がした。

それを見ることなく、正代はただ、鏡の中の自分に視線を注いだ。

いやだわ・・・・・・・・・

それは自分自身とは思えなかった。

歓楽街で男たちをもてなすような、そんな意味深な女性の姿に見えてしまう。

この体は夫だけのもののはず。

内藤が激しく私の肉体を欲しているという事実。

彼に手を愛撫され、しゃぶられたときに知らされた震えるような感覚が、正代の体奥でうごめいている。

下着を通じて、内藤が妖しい刺激を送ってくるような気がする。

内藤のメッセージが何度も届く。

正代はそれを確認することなく、一方的に自分自身のメッセージを送った。

「下着は確かに試しましたから」

瞬時に、内藤からの返信が届いた。

正代はそれを見ないわけにはいかなかった。

「写真を送ってください」

そんなこと、できるわけないでしょう・・・・・・・・

正代は、初めてあの男に対して怒りを感じた。

激情に流されるように、人妻は別のメッセージを打った。

「もう構わないでください。主人に言います」

送信した瞬間、正代は激しい後悔に襲われた。

よくわからないが、夫は内藤に対して何らかの弱みを負っている。内藤を刺激するようなことを言えば、いったいどうなるか。

彼は言っていた。私の要求は無視しないほうがいい、と。

そして、夫も同じようなことを匂わせていたのだ。

内藤からの反応を避けるように、正代は素早く下着を脱ぎ去ると、浴室に逃げ込んだ。

熱いシャワーを浴びて全ての戸惑いを流し去ろうとしたが、勿論、そんなことはできなかった。

しばらくの後、鼓動を高めたまま、正代は浴室を出た。

冷たい水をダイニングで飲みながら、正代はスマホを握りしめる。

彼のメッセージが届いているはずだ。

大きく息を吐き、正代はそっとディスプレイを見つめた。

「収賄、合計1000万超」
 
収賄???

いったい何なの・・・・・・・・。

想像もしない言葉がそこにあった。正代は、内藤が送信ミスをしたのでは、と考えた。しかし、彼は間違えてなどいなかった。

「ご主人が室石に貢がせた金ですよ」

固まる正代に、内藤が次々に困惑の言葉を送りつけた。

「ご主人が役所にいられなくなってもいいですか」

「証拠はいくらでもあります」

嘘だ・・・・・・・。

そんなこと、嘘に決まっている・・・・・・・・。

そう思いながら、正代は真逆のことも感じていた。

或いは・・・・・・・。

内藤の言っていることは事実なのかもしれない。

夫が内藤との外食に付き合うように無理に仕向けたことも、説明がつくような気がした。

だが、それ以降の内藤のアプローチについては、夫は何も知らされていないようだ。

自宅にやってきたことも、そして、下着を贈りつけてきたことも。

「最初はお金が欲しかったんですが」

静まり返った深夜のダイニングで、正代は内藤の最後の告白を受け取った。

「奥さんをいただくことにしました」

・・・・・・・・

「奥さんの甘い蜜をたっぷり吸わせてもらいます」

・・・・・・・・

優し気な日が差し込むダイニングテーブルに、正代は座り続けている。

内藤が今日、ここにやってくることを確信しながら。


(↑クリック、更新の励みです。凄く嬉しいです。次回更新10月14日の予定です。)
Comment

管理者のみに表示