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甘い蜜(26)

2016 10 28
「何か月ぶりですかね、奥さん」
内藤の外見に変化はなかった。大きなカメラを抱えている以外は。

「相変わらず色っぽい。探していたモデルのイメージにぴったりですよ」
「・・・・・・」

「今日は夕方まで撮影、よろしく・・・・」
「私、帰らせてもらいます」

正代は内藤をきつく見つめると、彼の脇を通って玄関に向かおうとした。そんな人妻の細い腕を、彼は狡猾につかんだ。

「離してください・・・・・・・・」
「ご主人は最近お元気ですか?」

「主人?・・・・・・」
「お金に困っているような素振りは見せていないですかね」

腕を掴まれたまま、正代は彼の顔を凝視した。激しく鼓動が高鳴っている。正代は思いだした。夫の個人的な出費が密かに増えているらしいことに。

「別にそんな・・・・・・」
「毎月私に貢いでるんですよ、ご主人」

「えっ?・・・・・・・」
腕を彼に解放されても、正代はもうそこから立ち去るわけにはいかなかった。

「収賄を暴露されたくないばかりに、ご主人は私に結構なお金をね、毎月ですよ」
「ひどい人・・・・・・・・・」

「今は無職ですからね。お金はどれだけあっても足りないんですよ」
内藤は窓際に沿ってゆっくり歩いた。

「ご主人を助けたいのなら、今日、モデルを演じるしかありませんよ。それが私の取引条件です」

全てが巧妙な罠だったのだろうか。正代は今更ながら思い出す。内藤がこの近所によく姿を見せていたことに。このマンションと彼は最初から・・・・・・・。

「どうしますか、奥さん」
つぶやきながら、内藤が追い込んでくる。正代は彼の向こう側に広がる外の風景を見た。よく晴れた空、遠方に自宅が見える。夫の苦悩する姿が、そこに重なった。

正代は言った。

「約束してください」
「ご主人にこれ以上接近しないことを、ですね」

「私がこのモデル役を演じたなら、金輪際、主人には妙な真似はしないでください」
「さすが奥さん、物分かりが早い。どうせそう要求されるだろうと、誓約書を用意してきましたよ」

内藤はバッグの中から、一通の封書を取り出すと、正代に手渡した。中身を確認した正代は、そこに内藤の署名そして捺印のある誓約が書かれていることを知った。

こんなものが果たして効力を持つのだろうか。だが、正代にはなぜか、彼が真実を言っているような気がした。

「モデルを引き受けてくれますね」
内藤の言葉に、正代は観念したように小さくうなずいた。

「早く終わらせてください。夕方には主人が帰ってきますから」
正代は嘘を言って、この場の取引を早く終わらせようとした。パンフレットに載っているようなモデルとして、適当に振舞えばいいのだ。少しの間の辛抱だ。

だが、カメラマンの要求は正代が想像したものとは違った。

「まず着替えてもらいましょうか」
「着替えるんですか? そんなこと、私・・・・・・・・・」
「こちらのイメージもありますから。さあ、ここに服を用意していますので」

内藤はそう言い残すとメインベッドルームの奥に消えた。しばらくの後、部屋から出てきた彼は、手にした衣服を正代に差し出した。薄い生地の白色のシャツ、そして、見るからに短そうなスカートだった。

「こんな服・・・・・・・・・」
「仕事から帰る夫を楽しみに待つ奥様というコンセプトなんでね。こんな服を着た奥さんが家で待ってれば、ご主人は喜びますよ」

服を受け取ったまま、正代は動くことができなかった。奥さんの下着姿を見たい、といつかこの男に言われたことを思い出す。正代は部屋の周囲を見回し、内藤に言った。

「では、寝室で着替えてきますから・・・・・・・」
「心配しないで、奥さん。覗いたりはしませんよ」

正代は服を抱えたまま、寝室に入るとドアを固く閉めた。一人になった空間。正代はそこにある巨大なベッドを見つめた。それだけで、妙に肢体が熱を帯びてくるような気がする。

「あの人に負けては駄目・・・・・・・・・・」
そう言い聞かせながら、正代はゆっくりと服を脱いだ。丁寧にたたみながら、下着姿の自分をベッドわきにある姿見に映し出す。そこにいるのは、普段の自分ではない。

今日は違う自分になるのよ。今日、正代はそんなことを思い、このマンションにやってきた。正代は今、その決意を強く、強く後悔している。

「これがあの人にばれたら・・・・・・・・・・・・」

下着姿の自分が、隠しカメラで観察されているような気がする。正代は彼の視線を避けるように、急いで服を身に着けた。

スカートは想像以上にタイトで、短い丈だった。人妻の魅惑的な下半身がくっきりと浮かび上がり、熟れた太腿が露になっている。

だが、正代をひどく困惑させたのは白いシャツだった。

肌が透けるほどに薄い生地のシャツ。正代の上半身の素肌が、シャツを通してはっきりと見える。それは、人妻の乳房を隠す下着をも、外からの視線にさらしていた。

「こんなのって・・・・・・・・・・・・」
正代は寝室にあるクローゼットを開けて、すがるように探した。空だった。他のシャツもなければ、下着もなかった。

「奥さん、開けますよ」
「待って・・・・・・・、少し待ってください!・・・・・・・・・」

正代は慌てて声をあげた。肌に汗が浮かぶのを感じる。内藤が外から迫ってくる声、そしてドアをたたく音が何度も届く。待って・・・・・、まだ駄目っ・・・・・・・・・。

「失礼しますよ、奥さん」
ドアが開き、内藤がカメラを抱えて寝室に飛び込んできた。

正代は彼に背を向け、思わず胸元を隠すように両腕を交錯させた。背後からゆっくりと彼が近づいてくる。正代は背を向けたまま、両腕を胸元で重ね続けている。

彼が笑ったことが、正代にわかった。内藤の腕が、強引に正代を振り向かせた。カメラをベッドに置いた彼は、人妻の両腕を強引に開き、胸元を見せることを求めた。

正代が唇を噛み、目を閉じた。

「うれしいですね。私が差し上げた下着を選んでいただけたなんて」
内藤の視線が、正代のブラに注がれた。


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