FC2ブログ

目覚め(15)

2017 03 07
「すみません、私が変なことを言わなければよかったです」
いつもより早い時間に教室を訪れた佐代子を、川原はそんな言葉と共に迎えいれた。

「い、いえ・・・・、もしも川原さんがいらっしゃらなかったら・・・・・」

日常の自分を解放すればいい、という彼の言葉に従い、佐代子は大胆なビキニ姿で午前のプールに向かった。

そして、その言葉通りにこれまでの自分自身を忘れ、冷たい水と同化しようとしていたとき、佐代子は3人の男たちに取り囲まれた。

あのまま、もし、彼が来てくれなかったならば、私はあれ以上のことを・・・・

それを想像すると、佐代子は今でも体奥で何かが昂っていることを感じた。その熱は、初めてこの陶芸教室に来た日からずっと人妻の肉体の奥で疼いている。

「リゾート地に来てることもあって、彼らも舞い上がっていたんでしょう。何をしでかすかわかったもんじゃない」

「はい・・・・」

「とにかくよかったです。あれ以上のことにならなくて」

川原は佐代子を優しく見つめた。今日の佐代子は、紺色のポロシャツにショートパンツ、裸足にサンダルという格好だった。

そのショートパンツは、一度も身に着けたことがなく、ずっと引き出しの奥で眠っていたものだった。

夫に南の島に誘われたとき、ふとそれに手を伸ばし、ここまで持参したのだ。初めてこれを選ぶ機会があるのかもしれない、と思いながら。

この部屋に来る前、佐代子は鏡に映った自分の姿を見つめた。想像以上にパンツは丈が短く、両脚を露出するかのような刺激的なデザインだった。

若い頃に買ったと思われるそのホットパンツは、しかし今もスリムな佐代子にはよく似合った。だが、少し大胆すぎるような気もする。

ためらいながら、結局佐代子はそれを選んだ。川原に、それを身に着けた自分を見てほしいという気持ちが、佐代子の胸のどこかにあった。

「今日が最後です。お好きなものを作ってみてください」
彼の言葉に、佐代子はリゾートでの日々が終わりに近づいていることを改めて知った。

日常に戻らねばならない時間が、少しずつ近づいている。再び夫と二人で暮らす、平穏で幸福な、だけど、どこか単調な毎日に。

「佐代子さん、今日もろくろを使ってみますか」
「えっ?」
「それとも、初日にやったように、ろくろは使わずに手でこねるだけでいきましょうか」

彼の質問に、佐代子はすぐに答えることができなかった。昨日の午後、ろくろの音をバックに続いた、彼と二人きりの熱を帯びた秘密の時間。

人妻は少し恥ずかし気に顔を俯かせ、迷うように唇を噛んだ。

「最後ですからもう一度ろくろに挑戦しましょうか」
佐代子の逡巡を救うように、川原が明るい口調でそう言ってくれた。

「そうですね・・・・、じゃ、やってみます・・・・・」
さりげない様子の川原に呼応するように、佐代子も笑みを浮かべた。

「テーブルに行きましょう」
広い室内を彼と一緒に歩き、佐代子は昨日と同じテーブルに向かった。まるでベッドのように巨大な作業台だ。

立ったまま、二人一緒になって粘土を手にし、丁寧に練り始める。時間をかけてこね続け、粘土の中の空気を抜き出してやる。

川原の姿勢はまさに職人のそれだった。真剣なまなざしと、繊細に、そして情熱的に動く彼の指先。それは佐代子を確かに魅了した。

教室には緊張感が漂いながらも、要所で彼が巧みに場を和ませ、佐代子をうまくリードしていく。

「佐代子さんもすっかり陶芸家ですね」
「まあ、そんなこと・・・・」

笑いあいながら、二人は粘土をたっぷりとこねた。川原の額に汗がにじんでいる。時折彼を見つめ、佐代子は思いを巡らせた。

昨日のことなどすっかり忘れたかのような彼の態度。彼は本当にそれを忘れたのだろうか、それとも密かにそれを思い出しているのだろうか・・・。

その表情は、目の前の人妻のことなどまるで意識していないようでもあった。佐代子の惑いに気付かぬ様子で、彼は言った。

「佐代子さん、では、そろそろ、ろくろに移りましょうか」

佐代子は、昨日と同じ椅子に導かれた。ホットパンツから露出する長い美脚を広げ、佐代子は椅子に座った。

まだ午後2時前だ。昨日この椅子に座った時間よりもずいぶん早い。

夏の終わりを告げるような強い風が、砂浜のパラソルを揺らしている。よく晴れ渡った空の下に広がる海が、全面ガラスのドアから見える。

波が高いようだが、その音はここまでほとんど届かない。鳥のさえずりが近くの木々から聞こえるだけで、室内は静寂に包まれていた。

佐代子は粘土を設置し、ろくろを見つめた。その視線は、既に確かな緊張を帯びていた。

「始めますね、佐代子さん」
背後から、川原のささやきが聞こえる。

そして、ろくろが音を立てて回り始めた。

佐代子を快楽の世界に誘惑するように妖し気に響く、ろくろの回転音。佐代子は何とか目の前にある粘土に神経を集中しようとした。

だが、なかなかうまくいかない。ぐるぐる回り続ける粘土に触れる人妻の指先は、どこかぎこちなく、自信なさげに動いている。

「佐代子さん、もう少し力を抜いて」
彼の姿は見えない。背後に立って、後方から私のことを見つめているのだ。そんなシチュエーションが、佐代子の鼓動を更に高めていく。

「何だか、今日はうまくいきません・・・・・」
佐代子は前を向いたまま、背後の彼にそうささやいた。彼はわかっているはずだ。自分が今どれほどに緊張しているのか。

既に、彼の焦らしが始まっているような気がして、佐代子は唇をそっと噛んだ。ただこうしているだけで、ポロシャツの下が汗ばんでくる。

「緊張されてるようですね、佐代子さん」
全てを見透かされているように感じながら、佐代子はただうつむいた。

彼の手が、佐代子の肩にそっと触れた。その瞬間、佐代子は指先を粘土から離した。腕を伸ばしたまま、姿勢を固める佐代子に、彼が近づいてくる。

「もう一度教えてあげますね、腕の動かし方を」
佐代子は小さくうなずいた。彼の手が、佐代子の背を撫で、首筋に浮かんだ汗をタオルで静かに拭ってくれる。

上半身全体をマッサージするように手を動かしながら、佐代子を包み込んでいく川原。気づいたとき、彼はまた後方から密着するように椅子に座っていた。

剥き出しの腕が掴まれるだけで、佐代子は妙な拘束感に包まれる。もう彼から逃げられないという予感。彼の手が、ゆっくりと佐代子の腕を愛撫していく。

スポットを探るように押してくる彼の指。それだけで、佐代子はもう、声をあげたくなるほどの熱を感じ始めた。小さく首を振ったまま、佐代子は下を向き、唇を噛んだ。

夫の性急な行為とはかけ離れた、たっぷりと時間をかけた愛撫。少しずつ佐代子は緊張を紐解かれ、快楽の泉に引きずり込まれていく。

「手をきれいにしましょうか、佐代子さん」
粘土のついた指先を、彼に丁寧に拭われる。指の谷間に入り込む彼の与える感触が、佐代子に未知の震えを教え、清楚な表情が妖しく歪む。

彼の両腕が、後方から佐代子を抱きしめてきた。瞳を閉じたまま、佐代子は緊張を解き放ち、彼に肢体を委ねた。

昨日よりも少しだけ、彼の行為は大胆だった。彼の手は佐代子の腰や腹部をポロシャツの上から撫で、やがて胸の膨らみに移った。

昨日はそこをほとんどいじめなかった彼。佐代子は彼の手を制するように自分の腕を重ねた。それに構うことなく、彼の手が佐代子の豊かな胸をゆっくりと揉んだ。

「あっ・・・・」
僅かな息を吐きながら、佐代子はびくっと全身を震わせた。柔らかな乳房をポロシャツ越しに覆い、ボリュームを確かめるような愛撫を与えてくる彼の10本の指。

「駄目っ・・・・・・・・・」
彼の手首をつかんだまま、佐代子は小さく首を振った。幾日も我慢していた何かが決壊し、濃厚な悦びに溺れていく予感が、人妻の全身を包んでいく。

「佐代子さん、やはり暑いみたいですね」
耳元に息を吹きかけながら、川原は佐代子のポロシャツの裾を掴んだ。

「脱いで」
佐代子が想像していなかった言葉を、彼はそっとささやいた。


(↑クリック、更新の励みです。凄く嬉しいです。次回更新、3月14日の予定です。)
Comment

管理者のみに表示