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目覚め(20)

2017 03 31
シャワーを浴びてもなお、肉体の疼きは消えようとしない。

スタイルのいい裸体をバスタオルだけで隠し、佐代子は自室のソファの上に座っている。

浴びたばかりの熱いお湯で、そして、自分自身の罪な蜜で、たっぷり濡れた躰。ここに戻ってきてもなお、まだ鼓動が高鳴り、呼吸が妖しく乱れている。

こんなことになるなんて・・・・

佐代子は、川原の部屋にかかってきた電話のことを、ぼんやりと思い出した。

それは、彼に美唇を音を立てて吸われ、意識を失うほどの快感を与えられた直後のことだった。

「今日の午後はそちらの陶芸教室にいらっしゃると聞いたんですが」

ホテルフロントからの電話は、川原にそう告げたらしい。それは、佐代子宛のものだった。

佐代子はすぐに電話に出ることができなかった。

彼にしなだれかかるような格好で立ち上がった佐代子の躰を隠すものは、紺色のブラだけだった。

唯一、彼に奪われることのなかったその下着は、二人の行為に続きがあることを教えているように見えた。

「佐代子さん、話せますか」
「川原さん・・・・」
「さあ、服を着てください」

最上のステージに、佐代子は確かに導かれたはずだった。そう確信したにもかかわらず、だが、佐代子は悟った。

肉体がまだ完全には満たされてはいないことに。

服を着てしまうことに、どこかでためらいがある。このままこの午後を終わらせてしまうことを想像したくはない。

だが、彼は佐代子のそんな想いに気付かぬように、床に散らばっているポロシャツ、ホットパンツ、そして、ショーツを丁寧に拾い上げた。

ぐっしょり濡れた下着を下半身に身に着けるだけで、自らの卑猥さを感じ、ひどく興奮してしまう佐代子。

「佐代子さん、ホテルの方です。少し急ぎのようです」
どうにか服を着た佐代子は、髪を整えながら彼から受話器を受け取り、電話に出た。

「奥様ですね。実はご主人の海釣りツアーが少し困った事態になりまして」
その言葉を聞いた瞬間、佐代子は思わず声を高めた。

「主人に何か?・・・・」
だが、ホテルスタッフはあくまでも穏やかな口調で言葉を続けた。佐代子は、その話し方から確かな安堵を得つつ、続きを待った。

「事故とかではないですので、ご安心ください。実は想像以上に海が荒れてしまったようで、現在、ツアー客の皆様は本島の港に避難しているようなんです」

「まあ・・・・」

本島は、ここから船で1時間程度の場所にある。そこには空港もあり、このリゾートに来る際、佐代子も訪れた場所だ。

「波の状況は回復に向かっているようですが、ご主人は今夜はこちらに戻ることができないかもしれません。確か・・・・・、明日チェックアウトでよろしいですよね」

「ええ、その予定ですわ」

「朝の波の状況が問題なければ、ご主人は明日早朝にはこちらに戻ることができそうです。奥様には恐縮ですが、その方向で了解いただけないでしょうか」

「そうですか・・・・」

「後程、ご主人からも奥様宛に電話が入るかと思います」

自室のソファに座り、佐代子は窓の彼方に広がるビーチを見つめた。夕闇が少しずつ迫る砂浜は依然風が強く、高い波が打ち寄せている。

今夜、ここに夫はいない・・・・。

バスタオルで隠された人妻の美しい裸体が、白く艶めいている。牝の本能に目覚め、疼き続けている佐代子の肉体。

私、どうすれば・・・・・

ホテルスタッフからの電話の後、佐代子はその内容を川原に告げた。彼は驚いた様子を見せながらも、どこまでもクールな態度を貫いた。

佐代子は、自分が限界までいじめられ、焦らされているような気分になった。

「佐代子さん、お一人で大丈夫ですか」
「え、ええ・・・・」

彼は、服を着た佐代子にもう手を伸ばそうとはしなかった。ほんの少し前、あんなに淫らな行為に二人で溺れていたというのに・・・・。

「川原さん、私・・・・・」
佐代子は、どうしていいかわからないまま、彼のことを見つめた。

彼は、答えを教えてはくれなかった。その代わり、更に人妻の意志を試すように、こんな風にささやいただけだった。

「今夜は人妻である自分を完全に解放してあげればいいのかもしれませんね」
「・・・・」

「最後の夜です。このリゾートで知ったことを忘れないように、自由に、そして大胆に振舞ってください、佐代子さん」
「川原さん・・・・」

「恥ずかしがらず、佐代子さんの魅力を隠すことなく」
「・・・・」

「そうすれば、まだ佐代子さんが知らない悦びが、見つかるかもしれません」
「川原さんは・・・・」

佐代子は思わず、そう訊いた。

「私は今夜もこの部屋で土をいじってますよ。もし眠れないようなら、いつでもここにいらしてください」

彼のそんな憎らしい態度が、人妻を巧みに追い込んでいく。

砂浜に打ち寄せる波を見つめながら、佐代子は再び心の中で繰り返す。

私、どうすれば・・・・・

そのとき、部屋の電話が鳴った。佐代子は立ち上がり、受話器を手にした。

「佐代子かい?」
普段通りの夫の声に、佐代子は確かな安堵、そして戸惑いを覚えた。淫らに濡れた裸体を気づかれまいとするように、佐代子は胸元を隠すタオルに手を伸ばした。

「あなた・・・・、大丈夫ですか?」
「参ったよ。予報以上に波が高くてね。聞いたと思うけど、今夜は戻れそうもないんだ」

「本島にいらしてるんですって?」
「系列のホテルの部屋に案内してもらった。せっかくの二人きりの旅行の最後の夜がこんな風になるなんて残念だが・・・・。今夜は佐代子と一緒にいたかった」

夫の言葉には、どこか意味深な響きがあるように思えた。一昨日、そして昨日の夜、狂ったように妻の躰を愛してきた夫。今夜、夫は明らかにその続きを期待していたのだ。

佐代子はそれを感じながら、僅かに唇を噛んだ。

「あなた、とにかく無事でいらしてくださいな。家に戻った後に、また二人で・・・・」

大胆な言葉を思わず口にしてしまったことに、佐代子は少し戸惑った。妻のそんな態度を巧みに察知した夫は、少し声を高めた。

「佐代子、じゃあ帰ったらまた昨夜のように」
「ええ・・・・、約束しますわ・・・・・・・・」

電話の向こうで、夫が興奮していることを感じ、佐代子自身もまた、肢体に熱を覚えた。

「今夜は一人だけど、大丈夫かい、佐代子?」
「ええ、今からレストランに一人で行くつもりです」

「佐代子が一人で食事をしていたら、誰か声をかけてくるかもしれないな」
夫の声には、かすかな嫉妬の気配があるように思えた。

一瞬、佐代子はプールで遭遇したあの3人の男性グループのことを想像した。すぐにその記憶をかき消し、佐代子は夫に言った。

「そんなことはないと思います。皆さん、お連れの方がいらっしゃるようですし」
「そうかな」

「それに・・・・、そんな風に声をかけられても私、迷惑なだけですから」
「それもそうだね」

控えめな妻の性格を知っている夫は、少し明るいトーンでそう言った。

「明日朝には戻れると思う。こっちに空港があるんだが、勿論そちらに戻るからね」
「あなた、どうか気を付けてお戻りになって」

そして、佐代子は夫との会話を終えた。波の音だけが存在する静寂に包まれ、佐代子は明日の朝まで夫がここにいないことを、改めて思った。

もし、今夜、私が陶芸教室の部屋に行ったなら・・・・・

それを想像することが、しかし、佐代子にはできなかった。

「とにかく夕食を済ませましょう・・・・・・」
夕闇が確実に迫る外の景色を見つめ、佐代子は立ち上がった。大胆に振舞いなさい、という川原の言葉が、佐代子の胸に意味深に響く。

その言葉に素直に従い、昼間、刺激的なビキニを選んでプールに行った自分。だが、そこではその選択のおかげで、妙な男たちに絡まれることになった。

川原さん、私にはあんなこと、もうできません・・・・・

彼の言葉を拒絶するかのように、佐代子はベージュの控えめな下着、そして、美脚を完全に隠すほどの長い丈のワンピースを身に着けた。

そして、一人でメインレストランへと向かった。

そこは、人妻を甘美な夜へ誘い込む入口だった。


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