FC2ブログ

目覚め(32)

2017 05 23
「最後いろいろあったけど、どうだったかな、今回の旅行は」

チェックアウトの朝。フロントデスクに立つ私にそう訊かれた妻、佐代子は、控えめな笑みを浮かべながら、こう答えてくれました。

「とても素敵な休暇でした。あなた、ありがとうございました」
「結婚15年だからね。いい思い出にすることができたね」

9月半ばになろうとしている南国の太陽には、秋の気配が僅かに感じられます。屋外に面したフロントデスクは、それでも眩しい陽光で溢れています。

穏やかな波が戻った海。その碧い水面の上に、白い鳥たちが飛び回り、魚を探している様子が見えます。

こんなリゾートの風景も今日でもうお別れだと思いながら、私は改めて今回の旅行のことを振り返りました。

最初は水着になることさえ恥ずかしがった妻。しかし、このホテルの雰囲気に誘惑されたのか、妻は何年振りかに水着姿になり、プールでの時間を楽しみ始めました。

ホテルスタッフからは思いがけぬサプライズもありました。過去の妻には無縁だった、大胆なデザインのビキニ。

挑発的とも言えるデザインの水着で裸を隠し、妻はプールでその見事な肢体を披露してくれました。

私は興奮を感じました。妻が依然として細身で、それだけでなく、熟れた肉付きをも伴った躰の持ち主であることは、この旅行前から知っていたつもりでした。

しかし、それは私の想像をはるかに凌駕するほどの魅力的な肉体でした。豊かな乳房と引き締まった腰つき。そして、官能的に丸みを帯びたヒップ。

そんな裸体をあの小さな水着だけで隠し、プールを何度も往復した妻。その姿を見るだけで、私は狂おしいほどの興奮を感じたものです。

妻の魅力に翻弄されたのは、夫である私だけではありませんでした。

このリゾートに訪れていた多くの男性たちが、プールサイドで妻に羨望の眼差しを送っていることに、私はすぐに気づきました。

彼らは、夫である私が同行していることを知りながら、泳ぐ妻の姿をまるで視姦するかのように、見つめていたものです。

佐代子が人妻であるという事実が、逆に男性たちの興奮を煽ったのかもしれません。

そそるような肉体の持ち主である女性が、毎夜、夫に抱かれ、喘ぐ光景を、彼らは想像していたのかもしれません。

「プールで泳がれている方は奥様ですか?」

こんなことを聞いてきた男性がいたことを、私は思いだしました。確か、3人連れで来ていた会社員風の男性グループです。

彼らは明らかに妻の肢体に心を奪われている様子でした。その視線には、妻と僅かでもいいから共に過ごしたいという男の欲望が、隠すことなく曝け出されていました。

それほどまでに妻の肉体に注がれた男性たちの好奇と欲情の視線。私は確信しています。妻もまた、そんな彼らの欲望にはっきりと気付いていたことを。

そして、日常では決して経験したことのないそんなシチュエーションに、佐代子は自分でも戸惑うほどの興奮を感じていたことを。

私も同じでした。妻の水着姿だけで興奮を感じていた私でしたが、そこに他の男性たちの関心が集まっている事実に気づき、更に鼓動を高めました。

妻を抱くことができるのは私だけだ。そう思いながらも、私はどこかで想像もしました。別の男性に抱かれる妻の姿を。

ホテルで出会った見知らぬ男性に抱かれる妻。私とはまるで違う愛され方を教えられ、理性に抗いながらも溺れていく妻。

私は、ここに来るまでそんなことを一度だって想像したことはありませんでした。

初めて覚えた異質な興奮。屈折した欲情とも言えそうなその衝動は、私を激しく昂らせ、妻に向かわせたのです。

最初、ベッドでの行為をやんわりと拒絶した妻。それは、普段の妻と同じ姿でした。しかし、私の興奮が収まることなどありませんでした。

滞在後、何日目かの夜、私は遂に半ば強引に妻を抱きました。妻は私に隠していた欲情を吐露するように、激しく、かつてないほどに私の腕の中で乱れました。

私の行為は過去のそれ以上に性急で、自分本位のものであったかもしれません。それでも、妻は私との行為に満たさたかのように、その肌を僅かに火照らせていました。

私はそれほどに激しく、荒々しく妻を抱いたことはありませんでした。このリゾート最後の夜を妻と共に過ごせなかったことが、私にとって唯一の心残りでした。

「昨日は戻ることができなくてすまなかった」
精算の確認を終えた私は、フロント付近のソファに妻と一緒に座りました。ここで本島に向かうボートを待ちます。

「あなたが無事で戻られたことが何よりですわ」
「ひどい波だったからね」

その手を軽く握りながら、私は妻の横顔を見つめました。少し疲れた様子でしたが、そこには妙な色気が溢れているようにも思えました。

みずみずしささえ感じさせる妻の肌は、このリゾートで知った女性としての悦びを伝えるかのように、妖しく艶めいています。

「昨日はゆっくり過ごすことができたかな」
「ええ。午後はまた陶芸教室に行ってきました」

少し嬉しそうな妻の表情に、私は安堵を感じました。このリゾート地で陶芸を体験したこともまた、妻には素敵な思い出となったようです。

「佐代子は絵をやっていたからね。陶芸の素質があるんじゃないのかな」
「また機会があればやってみたいです」

「せっかく覚えたんだからね。今回は何か作ったのかな」
「小さな食器を作りました。焼いて完成させた後に送られてくるようです」

「それは楽しみだね」
チェックアウトで混雑するフロント付近を見つめながら、私は自分自身の疲れをも感じました。

昨日の海釣りツアーは、昼頃から荒天に見舞われ、船酔いする客たちが続出するほどになりました。

戻ることもできたようですが、無理をせず近くの本島に避難、結局そこで一晩を過ごすことになりました。

夜明けとともに本島を出発し、この島に戻ってきたのは今朝午前6時を過ぎた頃でしょうか。

部屋に戻ったとき、妻は既に起床し、シャワーを浴びていました。浴室に忍び込もうかと思いましたが、チェックアウト当日という事実が、私に理性を思いださせていました。

「一人だったけど、昨夜はよく眠れたのかな」
「いえ、実はあまり眠ることができなくて・・・・」

少しばかり疲れた様子を見せた妻は、何か言葉を続けたそうな顔つきをしましたが、結局、そこで口を閉ざしました。

「こっちもほとんど寝ていないような状況だよ。でも、佐代子が言う通り、とにかくよかった、無事に戻ることができて」

私が力を込めた手に応えるように、妻もまた指先をしっかりと私に絡めてくれました。

「今日チェックアウトのグループは多いみたいだね」
「曜日の関係でそうかもしれませんね」

少しばかりの列が、フロントデスクの前に発生しています。そこに、私はプールで見かけた例の3人組の男性がいることに気付きました。

やや年配の男性に、部下と思われそうな二人の若い男性。見る限り、大手企業にでも勤務していそうな会社員のグループです。

こちらにいる我々には視線を一切投げることなく、彼らはフロントでチェックアウトの手続きをしています。

隣に座る妻も、彼らの存在に気付いたようです。少し顔を曇らせてうつむく妻に、私はそっとささやきました。

「プールにいた人たちだ」
「ええ」

「一緒のチェックアウトのようだね」
「そうみたいね」

やがてチェックアウトを終えた様子の彼らは、フロントデスク横に移動し、立ったまま何かを話し合うような素振りを見せました。

そのとき、私はそこにいるのが彼ら3人だけではないことに気づきました。その奥に、もう一人男性がいて、彼らに何かを聞かれているようです。

見るからに若い風貌のその男性が、このホテルのレストランで見かけたスタッフであることに、私はすぐに気づきました。

アルバイト風の彼は、少し困ったような顔つきをしています。3名の男性は、しかし何かを強要するような態度は見せず、笑顔を浮かべて若者に話しかけています。

しばらくの後、若者は一瞬、彼らのもとを離れ、どこかに姿を消しました。そして、再び彼らのもとに戻り、話を更に続けました。

妻もまた、彼らが気になるのか、ちらちらとその様子を見つめています。

やがて、その会話も終わり、若者と別れた3人の旅行客は足早にボート発着場に向かいました。そして、私たちもまた、他の客たちと共に後に続きました。

島を出発した後、妻は珍しく席に落ち着くことなく、船のデッキに出てみたいと言いました。

風で髪が乱れ、波が肌を濡らすことにも構うことなく、遠ざかる島を名残惜しそうに見つめる妻の姿。旅の最後の思い出として、私はその妻の姿を深く胸に刻み込みました。


(↑クリック、更新の励みです。凄く嬉しいです。次回更新、5月30日の予定です。)
Comment

管理者のみに表示