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目覚め(33)

2017 05 30
犯した罪に対する罰だ、とそのとき佐代子は思った。

夏の終わり、南国のリゾートホテルで私が犯した深い罪。人妻であることを忘れ、密かに夫を裏切り、別の男性に抱かれることを許した自分。

日常に戻ってからもなお、しばらくの間、佐代子はその甘美な思いに浸り、体奥に疼き続ける妖しい熱に溺れていた。

思い出の品が配達されたのは、そんな頃だった。

「佐代子、凄いじゃないか。プロが作った陶器みたいだよ」
「いやですわ、あなた。ただの湯呑みです」

素直に称賛する夫の言葉に、佐代子は謙遜するように言った。この夫は、陶芸教室の講師と自分がどのような関係に陥ったのか、勿論何も知らない。

「佐代子はセンスがあるんだな、やっぱり」
「そうでしょうか」

「きっと教室の先生もそれを感じ取ってくれたと思うけどね」
「ええ・・・・・」

「大切に使いなさい、佐代子」
「そのつもりです」

手元に届いた陶器を両手で包み、佐代子は川原との一夜の記憶をたどった。荒々しく、情熱的に抱いてくれた彼の息遣いが、佐代子の脳裏に刻み込まれている。

キャンドルの灯りだけが存在した海岸沿いの暗い室内で全裸にされ、激しく彼に愛された自分。

大胆に両脚を広げて彼の上に乗り、淫らに腰を振った自分の姿が、巨大な窓に映し出されていた。佐代子はそれを見つめ、その美唇を戸惑うほどにぐっしょりと濡らした。

あのひと時は、もう帰ってはこない。

私はこのまま日々の生活に埋没し、夫と共に平穏に生きていくのだ。あの恍惚の瞬間を、生涯の思い出として密かに抱え続けたまま。

秋の気配が徐々に深まり、時折涼しささえ感じられるようになった頃、佐代子は少しずつ休暇の記憶から抜け出し、以前の自分に戻ろうとした。

研究所で勤務する夫は、10月に入ったころから一層忙しくなったようだ。なんでも、新たなプロジェクトが始まり、そのリーダーに任命されたらしい。

過去にはあまりなかった地方の大学への出張も増え、夫が不在となる夜も目立つようになった。

「佐代子、ほら、お土産だよ」
出張先で、夫は必ず妻に何か土産を買ってきてくれた。

「ありがとうございます」
「出張中は特に変わりはなかったかな」

「ええ。一人でゆっくり過ごさせてもらいました」
「いつも悪いな、一人きりにさせて」

「大丈夫ですわ。一人でいることが苦になりませんから」
「そうか」

夫とのそんな会話の中にも、真実の全てを告白していない人妻がいた。

夫のいない夜、一人きりになったとき、佐代子は浴室で、或いはベッドであの南国の島での出来事のことをそっと想起した。

彼と交わり、声をあげて悶えた自分を想像するだけで、佐代子の熟れた肉体は熱を帯び、たっぷりと濡れた。

動き始めた指先を、佐代子は抑えることができなかった。

それは、過去の佐代子にはあり得ない行為だった。

唇を噛みしめ、シーツを片手で掴みながら、佐代子は激しく指先を動かし、腰を自分からいやらしく振った。

ああっ・・・・・・

鏡に映る全裸になった自分を見つめるだけで、佐代子は官能的な夢にいつまでも浸れるような気がした。

毎日、あの記憶を忘れたかのように振舞いながらも、佐代子は夫がいない夜、そんな妄想に耽るようになっていた。

そんな時だった。

佐代子のもとに、一通の封書が配達された。

ソファに腰を沈め、佐代子は封を開けた。

そして思った。

犯した罪に対する罰が配達されたのだ、と。

*****

プロジェクトが進むにつれ、私が地方に出張に行く機会も増えることになりました。

夫として妻を自宅に一人残すことはどうにも心苦しかったのですが、こればかりは仕方ありません。

毎週のように私は地方に出かけ、留守を頼む妻を少しでも喜ばせようと、土産を買って帰るようになりました。

不思議なもので、一日離れるだけで、妻の躰が妙になまめかしく見えてしまいます。出張から戻った夜に妻を抱くことは、やがて、二人の間での約束事になっていきました。

妻は、毎回たっぷりと濡れ、ベッドの上で敏感な反応を披露してくれます。夏の旅行以降、ずっとそうですが、出張から戻った夜は特に妻は乱れるような気がしました。

私がすぐに果ててしまっても、妻が不満を漏らすことはありませんでした。私は、いつしか、出張に行くことが楽しみになっていきました。

結婚直後はともかく、ここ最近はそんな気分になったことなどありません。

あの夏の旅行が確かに妻を変えたようです。素敵なリゾートホテルが、妻をより魅力的な女性に変えたと言えるのかもしれません。

そんなことを考えながら、私は今、出張先から自宅へと向かっています。

妻もまた、私の一夜の不在を、そして再会の夜を望んでいるのではないだろうか。そう感じさせるやり取りが、今回の出張前にありました。

「あなた、次はいつ出張にいらっしゃるの?」

それは珍しいことでした。妻は、かつてそんなことを自分から聞いたことはありませんでした。

「来週の後半辺りになりそうだよ」
「そう。わかったわ」

私が出張に出かけることを知り、妻は少し満足したような表情を浮かべました。

予定通り、私は1泊で出張し、今、自宅に戻るところです。日増しに色気を増すかのような妻の肢体を想像し、私は早くも興奮を高めています。

昨夜、何度か妻に電話をしましたが、タイミングが悪かったようで、なかなか繋ぐことができませんでした。

午後11時過ぎに、妻とようやく少しだけ話をすることができました。ただ、寝る直前だったのか、妻は疲れた様子だったので、すぐに私は会話を止めました。

今夜もまた、私は妻を抱くことになるのでしょう。

私は速足で歩き、そして、自宅の前にまでたどり着きました。

「ただいま」
「あなた、お帰りなさい。出張、お疲れ様でした」

どこか官能的に見えるほどの美貌を備えた妻が、私を迎えてくれました。


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