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依頼者~緑の過去(3)

2017 08 01
「おかしな依頼者さんだったわ」

ベッドに横になった緑は、天井を見つめてそうつぶやいた。

金曜の夜。最後の依頼者が帰った後も、緑は一人事務所に残り、午後8時過ぎまで書類に目を通し続けた。

静まり返った事務所の自室に座り、緑はメール配信されたファイル、或いは机に積まれた書類を熱心に読み、ポイントを整理してメモに記入した。

だが、いつもとは何かが違った。緑は、仕事に集中できない自分を感じていた。

後藤と名乗るあの依頼者・・・・

先ほど面談を終えた相手のことが、なまなましく緑の脳裏に刻み込まれている。彼の容貌、仕草、いくつかの発言。

そして、眼鏡の奥からこちらの肌を舐め回すような熱い視線。

この地方最大手の地銀に勤務するという彼が与えたインパクトは、時間が経つにつれて、じわじわと緑を包み込んでいく。

不倫相手である若い女性と別れたいという彼。だが、彼のベッドでのテクニックに魅了された彼女は、それを許そうとしないという。

操を捧げた相手である彼に、その若い女性はすっかり心も肉体も奪われてしまったというのだろうか。

それほどに彼女を狂わせてしまう愛し方って、いったいどれほどに・・・・・

何を考えているの、私・・・・。

緑は、結局あきらめるようにノートパソコンを閉じた。タイトスカートの奥が、あの面談からずっと、熱く疼き続けているような気がする。

こんな気分に事務所でなったことなんか、過去に一度だってない。

いや、自宅で夫と過ごすときでも、こんな風に肢体が火照り、気分が昂ってしまうことなどは最近ではすっかり縁遠くなった。

5歳年上の夫は今年43歳。緑と同じ弁護士であり、この地方随一の法律事務所に勤務している。

ちょっとしたパーティで知り合った彼にアプローチをされ、緑が結婚を決意したのは5年ほど前のことだ。

互いに多忙な生活である。それを覚悟して結婚したようなところもあり、二人とも非難し合うこともなく、穏やかな生活を続けていた。

それは、ある意味ではドライで冷めた関係といってもよかった。

夫が緑を抱かなくなったのは、結婚から3年ほどした頃からだった。他に女性ができたわけではない。緑はそれを疑ったことはなかった。

あまりに多忙で、プレッシャーの大きい仕事に携わっているせいだろうか。緑の夫は、ある時から男性としての機能を低下させてしまったのだ。

まるでできないというわけではないが、肝心なところで緑と一つになれないということが、何度か続いた。

やがて、二人はそれを求めあわずとも、一緒に暮らしていくことを覚えた。

金曜の夜というのに、珍しく夫も今日は帰りが早い。緑と並ぶようにベッドに入り、彼が寝室の照明を消した。

シャワーを浴びて、一日の全てを洗い流したはずなのに、まだ躰が疼き続けている気がする。パジャマ姿の緑は、再びあの依頼者のことを思い出していた。

「へえ。どんな依頼者だったんだい?」
隣に横たわる緑の細い肢体を優しく抱き寄せ、夫が興味深そうに言った。

「不倫に困っているという依頼者さんよ。ご主人のほうが相談に」
「いまどき、奥さんが浮気っていうのは少しも珍しくない」

彼はそうささやきながら、緑の盛り上がった胸元をパジャマの上から優しく愛撫した。

「違うわ。奥さんじゃなくて、彼のほうなの、不倫してるのは」
「別の女性と?」
「ええ。銀行員の方だけど、同じ部署の新人さんと関係を持っているそうよ」

緑は、胸元をまさぐってくる夫の手つきにもう息を乱しそうになりながら、何とか平静を装って答えた。

「いったい何を相談したいっていうんだ?」
「それがね・・・・、自分は別れたいんだけど、彼女が別れてくれないんだって」

夫の手を制するように自分の手を重ね、緑は肢体を少しベッドの上で動かした。

「それは弁護士に相談することじゃないな」
「でしょう。奥様のことを大切にしたいから、自分は早く別れたいって言うんだけど」

妻の手の動きを無視し、彼は彼女のパジャマの裾から指先を滑り込ませた。ブラに包まれた緑の美乳が、夫の手でたっぷり愛撫された。

「やんっ・・・・」
緑は思わず甘い息を吐き、暗い寝室で夫を見つめ、小さく首を振った。彼は構うことなく、妻にささやきを続けた。

「どうして女性のほうは別れないんだろうな。何か理由があるんだろう」
彼の手が巧みにブラをずらし、緑の乳房を暖かく包み込む。既にその頂点はいやらしく、くっきりと硬くなっている。

「あなた・・・・、駄目っ・・・・」
妻がこんな風にすぐに声を震わせることなど、過去に一度もなかった。彼は確かな興奮を感じながら、より激しく緑に乳房をいじめ始めた。

緑が布団の下で肢体をくねらせ、たまらない様子で息を吐く。

「よしてっ・・・・・・」
「どんな理由があるのか、彼は何も教えてくれなかったのかい?」

「その方は・・・・、実は彼女にとって初めての男性だったそうよ」
明らかに喘ぎの混じった色っぽい声で、緑は夫に答え、密かに指先で布団を掴んだ。

「どうしたんだい、緑。今夜は少し変じゃないか?」
からかうように、そして何か不審を探るように、夫の指先が緑の下半身に伸びていく。いやがる妻を制し、彼の手がパジャマの下に潜り込んだ。

「ここはどうなっているんだい、緑」
「あなた・・・・・、駄目っ、そこは・・・・・、いやんっ・・・・・・・」

弁護士とは思えないような危うい声を漏らし、緑は唇を噛んだ。彼の指先がショーツの向こう側に滑り込み、緑の大切なスポットを突いた。

「ああんっ・・・・・」
布団の下、緑はびくっと肢体を震わせ、声を漏らした。

「もうこんなに濡れてるじゃないか、緑」
「違いますっ・・・・・、それは・・・・・・・」
「その依頼者との面談で何か興奮することがあったんじゃないのか」

妻の秘密をかぎ取ったかのような夫のつぶやき。彼は大胆に指先を重ね、たっぷりと濡れた妻の秘所にぐいっと挿入した。

「あんっ!・・・・」
仰向けのまま、顎を上に向けるように反応し、緑は寝室に声を響かせた。

「初めての男はそんなにいいものなのかな、女性にとって」
ゆっくりと動き始める夫の手。彼のもう一方の手が、妻の下半身からパジャマとショーツを引きずりおろす。

「脚を広げなさい」
彼にいざなわれるがまま、露になった美脚を淫らに広げていく緑。その中心でなまめかしく濡れ光る緑の花園に、夫の指先は何度も挿入される。

「よほど彼はテクニシャンだったのかもしれないな。こんな風に」
そんな卑猥な言葉を妻の耳元でささやき、彼は次第に激しく腕を往復させていく。

「あっ・・・・、あっ・・・・、あっ・・・・」
うっとりとした表情を浮かべ、緑は両手でシーツをかきむしりながら、官能の声をあげていく。

溢れ出す緑の蜜が、夫の指とシーツをぐっしょりと濡らしていく。自らの肉体の敏感すぎる反応に戸惑いながら、緑は快楽の渦に飲まれていく。

「緑はどんな男に初めて抱かれたんだい?」
「そんなこと・・・・・・、聞かないでっ・・・・・・・・」

「こんなに濡れてきたじゃないか。緑も昔を思い出したんだろう」
「違いますっ・・・・、あっ・・・・・、ああっ、駄目っ・・・・・・・」

瞳を閉じたまま、緑は激しく躰を揺らし、快感に溺れていった。後藤と名乗る彼が、若い女性行員を抱く光景が、再び緑の脳裏に繰り広げられる。

貫いたまま、いっこうに果てる気配のない男。

激しく、力強く、野獣のように愛してくる彼。

駄目っ・・・・・、ううんっ・・・・・、あんっ・・・・・・・

「緑、イキなさい・・・・・、我慢しないで・・・・・・・」

夫の言葉を聞きながら、緑はまるで別のことを想像し続けた。脚を広げたまま、緑は自分でも戸惑うほどにいやらしく、腰を振った。

「ああっ・・・・・・、駄目っ・・・・・・・・・」
激しく首を振り、緑の肢体が何度かベッド上で跳ね上がるように震えた。

その直後、夫の指先の責めが停止し、熱く潤った妻の秘所からそっと引き抜かれた。そして、彼は息を乱した妻を癒すように、そっとキスを与えた。

「あなた・・・・・・」

ハアハアハアと息を荒げながら、緑はかすかな声で夫に応えた。

「よかったかい、緑?」
妻がエクスタシーに導かれたことを確信したように、夫は緑にささやいた。緑は、息を乱したまま、恥ずかし気に小さくうなずいた。

「初めての男のことを想像してたんだろう、緑」
「違います・・・・・・、もう忘れましたから・・・・・・・」
「本当かい?」

息を何とか整えながら、緑は隣にいる夫に擦りよった。そして、弁護士としての毅然とした態度を思い出したように、はっきりとささやいた。

「当たり前じゃないですか。変なこと聞かないで」
「すまんな。ちょっとからかってみただけだよ」
「いやだわ、もう。おかしな人」

そして、緑は夫と抱き合いながら目を閉じた。夫はすぐに寝息を立て始めたが、しかし、緑はそこからしばらくの間、ずっと覚醒をしたまま起きていた。

虚偽を言う人間など、弁護士の資格などないのかしら・・・・・・。緑は、そんなことを考えていた。

今夜、緑は夫に二つの嘘をついた。

絶頂に昇り詰めたという告白。そして、初めて愛された男のことを忘れたという告白。

どういうわけか、再び緑は後藤の姿を思い出した。

その夜、人妻の満たされぬ躰は、朝まで疼き続けたままだった。


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