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温泉旅行での出来事(5)

2010 01 17
それを感じた瞬間、私は解き放とうとしていた理性を何とか取り戻し、閉じていた瞳を開きました。

深夜の露天風呂ですが、所々の岩場に照明が配置されていますので、実際には十分な明るさがあります。私は視線を感じたほうに向かって目を凝らしました。

でも、そうする必要はありませんでした。視線の主は、自ら声を発してきたのです。

「あの・・・・・・」

その男性の声は、どこか遠慮したトーンを感じさせるものでした。私は、叫び声をあげてもいいような状況なのに、なぜかそうしませんでした。それがあまりに突然の出来事であったこと、そして、その直前まで自分が淫らな行為に淫していたせいかもしれません。

「は、はい・・・・・・」
私は無意識のうちにお湯の中の裸体をタオルで隠し、彼のほうを見つめながら、小声でそう答えました。

「よかったら、一緒に飲みませんか?」
「はい?」
「あ、あの・・・・・、僕達二人で飲んでるんですけど、何だかつまんなくて・・・・」

声の主の姿が見えました。随分若そうな感じで、まだ20代半ばといったところでしょうか。彼の後ろに、もう一人同じような年頃の男性がいることに、私は気づきました。

二人は、男湯の露天風呂から混浴エリアに行き、更にそこから女湯の露天風呂にまでやってきたようです。その言葉通り、日本酒らしい徳利、そしてお猪口を乗せたお盆をお湯に浮かべています。私はこれまで、そんな風にお風呂の中でお酒を飲むのを実際に見たこともありませんでした。

「でも・・・・・」
当然のように、私は戸惑いました。主婦が見知らぬ男性、しかも二人と一緒に、露天風呂でお酒を飲むなんて、常識では考えられないことです。

「いいじゃないですか。お一人なんですよね?」
「え、ええ、まあ・・・・・」
「じゃあ、少しは楽しみましょうよ、せっかくの温泉なんですから」

そう言うと、二人はお湯に入ったままの状態で、強引に女湯のエリアに入ってきました。

「ちょ、ちょっと・・・・・・」
「大丈夫ですよ、誰か来たらすぐに帰りますから」

私は、彼らの行為を強く拒絶することができませんでした。さっきの自分の行為を見られたのかも、という危惧がどこかに存在し、それが抵抗の邪魔をしたんです。

でも、それだけではなかったのかもしれません。そのときの私は主人に対し、怒りともいえるような感情を抱いていました。

もう、どうなっても知らないから・・・・・

私はどこか、そんな投げやりな気分でいたのです。主人も知らない男の人達と、こんな風に内緒でお酒を飲むなんて、私には、それが主人への格好の復讐の機会のように思えました。

「でも、私、そんなにお酒強くないし・・・・・」
「じゃあ、1杯だけでいいですから」

お盆の上には4個か5個、お猪口が載っていました。私は彼らに勧められるがままに、一つを手に持たされ、乾杯をしました。

辛口の、おいしいお酒でした。ここの温泉のお湯は少し濁っていて、中は透き通って見えません。自分の体が見られてしまうことはなさそうです。私は、目の前に並ぶ二人の顔を改めて見つめました。

やはり、二人とも私よりは年下のようです。私は、少し驚いてしまいました。二人とも、結構、いや、かなりのハンサムだったんです。主人以外の男性と接することさえ最近ではほとんどない私にとって、それは相当緊張してしまう状況でした。

そんな感情の揺れを察知されないように、私は何かしゃべりかけようとしましたが、なかなかスムーズに言葉が出てきません。最初に誘いの声を発した彼のほうから、話しかけてくれました。

「僕達、会社の忘年会を兼ねてこの温泉に来てるんです」
「そうなんですか・・・・・」
「あっ、僕は中山って言って、こっちは松本です」

松本君と紹介された彼のほうは、少しおとなしそうなタイプで、恥ずかしげに私のほうに向かって頭を下げました。私はふと、昼間お風呂で一緒だった女の子達を思い出しました。

「社員旅行って、女の子達も一緒でしょう?」
「そうですよ、ほんとは彼女達と飲みたかったんですけど、みんな寝ちゃったんです」

あっけらかんと、私に何の気遣いもなくそんなことを話す彼の口調が、私には少しも憎めませんでした。

「あの、失礼ですけど、ご結婚されてるんですよね?」
私の指輪を素早くチェックしたのか、中山君のほうがそう聞いてきました。

「ええ、まあ・・・・・」
「昼間、ロビーで見かけましたよ、奥さんのこと・・・・・」
「えっ、そうなの?・・・・・」
「すげえ美人の奥さんだなあ、なんて思ってたんですよ」

明らかにお世辞とわかるような言葉を言われても、そのときの私にはそれは嬉しく響きました。

「お子さんもいらっしゃいましたよね」
「え、ええ・・・・・」
「全然そんな風に見えませんよ。めっちゃスタイルいいじゃないですか」
「そんな・・・・・・」

私は、自分の裸が彼らに見られているような気がして、急に鼓動を早めてしまいました。そんな私に、中山君は更に質問を投げかけてきます。

「ご主人はお部屋ですか? 男湯のほうには誰もいませんでしたけど」
「え、ええ・・・・、もう寝てるの・・・・・」
「そうなんですか。一緒に入ればいいじゃないですか」

彼のその言葉は、私に主人への怒りの混じった感情を思い出せるものでした。私はついはっきりとした口調で、答えてしまいました。

「ほんとよね、せっかくこんな露天風呂があるのに」
「まさか喧嘩したとか」
「まあ、ご想像にお任せします・・・・・」

観光地の露天風呂という環境のせいか、私たちは会ったばかりで、しかも互いにお風呂の中にいるというのに、リラックスした調子で、そんな風な会話を続けました。

彼ら二人は、本当に人が良さそうな印象で、そうやって私と会話をするだけで満足そうです。

それは、どこか私に物足りなさを感じさせるものでした。



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