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妻の素顔(2)

2010 01 29
あれは結婚して5年ほど経った頃でした。妻が28歳のときです。

普段通りオフィスで仕事をしていた私のもとに、突然警察から電話があったんです。最初、私はいったい何が起こったのか、理解することができませんでした。

「大西優里さんのご主人ですね?」
「え、ええ、そうですが・・・・・・・」
「実は奥様が暴漢に襲われましてね・・・・」

頭が真っ白になった状態で、私は会社を飛び出し、警察に指示された病院へと向かいました。それは、自宅近くにある総合病院でした。

受付に飛び込み、私は妻が治療を受けているという病室に直行しました。廊下に制服を着た警官がいるのを確認し、私はそのとき初めて、ただならぬ事態が起こったことを実感しました。

「優里!」
部屋のドアを開けた私の目が捉えたのは、ベッドで静かに横たわる妻の姿でした。

「あなた・・・・・」
「どうしたんだ、優里?」

見たところ、妻の体に怪我などはなく、私は少し安心しました。私の質問に対し、室内にいた年配の刑事さんが妻に代わって答えてくれました。

「奥様はご自宅の駐車場で男に襲われたようです」
「駐車場で男に?」

「ええ。買い物に行こうと車のドアを開けた奥様を強引に押し込んで、男はそこで乱暴を働いたんです」
「・・・・・・・」

「ご主人もご存知かと思いますが、あのマンションの駐車場は死角も多くて少し物騒ですからな。周囲で誰も気づく人間はいなかったようです」

その刑事さんの口ぶりに、私は少しばかり腹が立ったことを覚えています。いかにも妻に責任があるような言い回しだったんです。

「それで犯人は?・・・・・」
私は静かに横たわる妻の手を握りながら、質問を重ねました。

「まだはっきりとはしません。目撃情報や現場に残された物証からまずは捜査を始めるつもりですがね」
「そうですか・・・・・」

「付近では似たような事件は発生していませんからな。まったくの通り魔的な犯行か、或いは・・・・」
「或いは、何でしょう、刑事さん?」

「奥様のことを以前からつけ狙っていた男による犯行かもしれません。いや、これはあくまでもそういう可能性があるというだけで、奥様にもそんな男は全く心当たりはないようですが・・・・」

私は淡々と話す刑事さんの言葉を聞きながら、妻の顔を見つめました。外傷はないものの、妻が大きなショックを受けていることは明らかでした。

「奥様にも、容態が落ち着いたらまた何度か事情聴取をさせていただくことになるかと思います。とにかく、ご主人のサポートが必要ですから、おつらいでしょうが、よろしくお願いしますよ」

刑事さんが部屋を出た後、私は妻と二人きりになりました。無理に事件の詳細を聞くことなく、私はただ、妻のそばにいることを心がけました。

「大変だったな、優里・・・・・、すまない、守ってやれなくて・・・・・」
「いいのよ、あなた・・・・・・」

妻は気丈にもそんな風に話してくれました。ベッドに横になったまま、私の手をしっかりと握り締めてきます。美しい瞳には、わずかな涙が光っているようです。

「俺ができることがあれば何だってしてやるからな、優里・・・・・・」
「うん・・・・・、大樹が巻き込まれなくてほんとによかったわ・・・・・・」

ちょうどその年から一人息子の大樹は幼稚園に通い始めていました。その事件は平日の午前中に発生したもので、息子は妻と一緒ではありませんでした。

しばらくの入院の後、妻は家に戻り、そしてまた、いつも通りの生活を始めました。息子には、少し調子が悪くて検査入院したんだとして、真相を告げることは勿論ありませんでした。

私たちは、その後しばらくの間、事件のことを話題に出すことはありませんでした。警察での事情聴取が行われた頃、概要程度を少し妻から聞かされただけです。

妻の話によれば、車のドアを開けたとき、背後に突然男の気配を感じて、気がつけば車の中に押し込まれていたそうです。男は目出し帽をかぶっていて人相などは全くわからなかったとのこと。

ナイフなどの凶器も持っていなかったそうです。ただ妻の体だけを目当てにしていた様子で、満足した後は、何も言い残すことなく、静かに走り去ったとのことでした。

年齢もはっきりとはわからないが、夫の私より年上のような気がした、と妻は言っていました。しっかりした体格で、とにかく力が強かったそうです。

妻が私に教えてくれたのは、ざっとこんな情報だけでした。後のことについては、話そうともしませんでしたし、私もまた、敢えて聞こうとはしませんでした。

正直なところ、私はもう少し詳細な話を知りたいと思っていました。白状してしまうと、その男は妻にどんな酷い仕打ちをしたのか、具体的に知りたかったんです。

私が聞かされたのは、ただ『妻が男に乱暴された』ということだけでした。

妻はその部分を、意図的に私に隠し続けました。残酷な記憶を思い出したくないのでしょう。たとえ家族であっても、それを口にすることは、心に負った傷を更に深めてしまうだけなのかもしれません。

或いは、夫である私だからこそ、それを秘めておきたいのかもしれません。勿論、私にはそんな妻の気持ちがよく理解できました。

それでもなお、どこか満足していない自分がいることを、私は感じていました。あの事件の全容を掴みきれていない、という、歯がゆい思いを私は抱いていたんです。

私は、しかし、急ごうとはしませんでした。いつか時が来れば、妻はそれを話してくれるのかもしれない。彼女の痛みを理解していないのかもしれませんが、私はそんな風に考えるようにしました。

そして、私たち夫婦はその事件に触れることないまま、何週間、何ヶ月を過ごしていったんです。

妻は、すっかりそれを忘れてしまったかのようでした。普段の生活の中では、心身ともに、あの事件の傷跡は妻のどこにも見当たりません。

しかし、それは、あくまでも表面上のことでした。妻の体にはその事件の記憶はしっかり刻み込まれていたんです。事件から数ヵ月後、私はそれを初めて知りました。

ある夜、妻は私に抱かれることを激しく拒否したんです。



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↑「密会」続編、完結しました。長い間、応援本当にありがとうございました!




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Comment
犯人は桜田ですか?もちろん、そんな事はないでしょうが…
お馬鹿な話、失礼しましたm(_ _)m

短編も楽しみにしてます。明日は、土日で更新されないでしょうから、ちょっと寂しいです。
40代女性様
そうです、あの桜田がこんなところにまで・・・・、って違いますよ!!
是非このお話も楽しみにしていてくださいね。
こっちも
面白いはじまりかたで 楽しみですp(^^)q
自分と ダブらせて読みます!(^^)!
美桜さん
ありがとうございます。密会同様、どうぞよろしくお願いします。
わくわく
新しい小説、展開を楽しみにしてます

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