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脅迫(5)

2010 03 01
「志織さん、雷、遠ざかっているかも・・・・・」
涼介のそんなささやき声を耳にし、志織は閉じ続けていた瞳をそっと開いた。

永遠に続くのかと思われた雷雨が、ようやく弱まり始めている。雷鳴は明らかに小さく、遠いものになり、雨もまた、少しずつ小降りになってきた。

「そうね・・・・・」
志織は失いかけていたリーダーシップを再び取り戻そうと、自らを奮い立たせた。とにかく、涼介と一緒に、少しでも早くふもとに戻らねばならないのだ。

だが、それは簡単にはいかないようだった。雷雲が去りつつあるというのに、周囲には明るさが戻ってこない。それどころか、更に暗さが増したかのように思える。

志織はその場に立ち上がり、レインウェアを脱ぎ去った。服が雨でかなり濡れていることを感じながら、志織は腕時計に目をやった。

「えっ、もうこんな時間・・・・・」
周囲の暗さの証左ともなるように、時計は既に午後6時をまわっていた。激しい雷雨は2時間以上続いたことになる。

「志織さん、携帯は?」
「かけてみるわ・・・・」

涼介に促され、志織は再び携帯電話を手にした。しかし同じだった。相変わらず圏外との表示が続き、勿論、着信もないようだ。

久雄、そして奈津美は今頃どうしているのだろうか。辛抱強く待ち続けているのか、或いは捜索を警察等に依頼しようとしているのかもしれない。

こんな騒動を自分が巻き起こしてしまったことを、志織は改めて悔やんだ。しかし、そんなことを考えていても仕方ない。とにかく今は行動するのだ。

「涼介君、歩ける?」
「勿論。志織さんこそ、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。何とかトレッキングコースを見つけて、早く携帯が繋がる場所に行きましょう」

あれほどの豪雨が嘘のように、完全に雨は止んだ。だが、上空に青空は確認できない。そこには、夜の暗がりが急速に広がりつつあった。

志織は荷物の中から小型の懐中電灯を取り出し、足元を照らし出した。

「志織さん、すげえ、準備いいなあ」
「まさか使うことになるなんて思わなかったけどね」

レインウェアを荷物に押し込み、二人は濡れた体で再び歩き出した。既に沈んだ太陽の残照が、何とか残っているが、それも時間の問題だ。ぼんやりと確認できる前方を見つめながら、志織は涼介の手を引き、緩やかな斜面を下りていく。

時折、聞いたことにないような野鳥の声が、遠くから聞こえてくる。そして、秋の夜を奏でる虫たちの鳴き声が二人を包んでいく。

木々の数が次第に減っていくのがわかる。暗さは増していくものの、志織は少しずつ希望を抱き始めていた。そして、更にしばらくの後、涼介が突然叫んだ。

「志織さん、ほらっ、道だ!」
暗闇の中、一本の白い筋が、二人を招くようにくっきりと浮かび上がっていた。間違いなく、それは人の手で整備された道だった。

「涼介君、やっと見つかったわ・・・・」
深い安堵に包まれながら、志織は足を速めた。そして、細い丸太が敷かれた部分を乗り越え、そのトレッキングコースの上に立った。

「あ~、道だよ、志織さん・・・・・」
喜ぶ涼介の隣で、志織は懐中電灯で周囲を照らした。ほぼ完全な闇が、二人を包み込もうとしている。意外に道は平坦で、歩きやすそうなものだったが、案内板のような類は、全く見当たらない。

志織は再び時計を見つめた。午後7時15分だった。暗闇の中、少しずつでも歩き続ければ、とりあえずは携帯が繋がるエリアにたどり着くはずだ。

「涼介君、さあ、戻るわよ」
「まず、昼食を食べたあの頂上に行くんだよね」
「そうね。この道もあそこに繋がっているはずだから」

志織はそう言うと、迷わず左方向へと歩き始めた。斜面を滑り降りているわけでもなかったが、志織は先ほどと同じように、涼介の手をきつく握り締めたままだ。

懐中電灯の明かりがなければ、目の前の空間さえ、見ることができないほどの闇の深さだ。ただ足元を照らし続けながら、志織はゆっくりと前に進んでいった。

次第に上り坂になっていく。頂上に向かっている証拠だ。志織は何度も立ち止まっては、携帯電話を手にした。しかし、相変わらず電波が届くことはない。

「まだ電話繋がらないわ・・・・・」
志織は怒りの入り混じった不安を言葉にしながら、更に上へと続く道を歩き続けた。そして、隣を歩く涼介がしばらく前から言葉を発しないことに気づく。

「ねえ、大丈夫、涼介君?」
志織の言葉に、涼介はその場に立ち止まり、そしてぽつりと答えた。

「少し寒気がするんだよね・・・・・」
思わず志織は言葉を失い、涼介の額に手を当てた。熱はなさそうだが、雨で濡れた服は、彼の体力を消耗させていることは間違いない。

「困ったわね・・・・・」
志織は、これ以上歩き続けることは、いたずらに涼介の疲労を増すだけだと判断した。動くことを諦めるならば、選択肢はもう一つしかない。

このまま一夜をこの山で過ごすのだ。しかし、それはあまりにリスクが高いように、志織には思えた。食料も寝袋もないのだ。そして、深夜になれば、相当な冷え込みになるはずだ。濡れた体で、果たして朝まで無事にいられるのだろうか。

「・・・・・・」
絶望に包まれたまま、志織は涼介につられるように、その場にしゃがみこんだ。懸命に無視していた疲労が、一気に志織に襲い掛かる。

座ったまま、涼介の体を抱きしめ、志織はもう動く気力も失せていくような気がした。いったいどうすれば・・・・。

そのときだった。

「志織さん、ほらっ、あそこ、灯りだ・・・・・・」
「えっ?」

それは遥か遠方の暗闇の中に、ちらちらと揺れ動いていた。群れからはぐれた一匹の蛍のように、不安げに動きながら、その灯りは少しずつこちらに近づいてくる。

間違いない。誰かこちらに来るんだ・・・・。自分達が歩いてきた方角からやってくるその灯りに向かって、志織は思わず叫び声をあげた。

「助けて!・・・・・、誰か、助けてくださいっ!・・・・・・」



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Comment
新作楽しみに読んでいます。
脅迫…?これからどうなるのかワクワクしますp(^^)q
ゆみりんさん
コメント、励みになります。ありがとうございます。自分でもどんなストーリーになるのか楽しみな作品です。応援してくださいね。

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